平成19年度秋期テクニカルエンジニア(ネットワーク)午後I 問1

ネットワークスペシャリスト試験
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今日は、平成19年度秋期テクニカルエンジニア(ネットワーク)午後I 問1を解こうと思います。

問題文および模範解答(解答のみ、解説はありません)は下のリンクからどうぞ。
※IPAのサイトで公開されているPDFにリンクしています

問題文はこちら】【模範解答はこちら

各問を解いてみる

設問1

(ア)

『加入者宅まで光ファイバを配線すること』を表す言葉を聞かれています。知識がないと絶対に答えられない質問なのであきらめてしまった人も多いかも知れませんが、実は

『光ファイバを家まで』をそのまま英語にして『Fiber To The Home』=『FTTH

が正解です。正確な意味は知らなくても、耳に・目にする機会があって『光ファイバ関係の用語』としてなら知っていた人も多いのではないでしょうか。
ちなみに類似の言葉として

『敷地内まで』を表す『Fiber To The Premises』=『FTTP』
ケーブルテレビなどで使われる『Fiber To The Node』=『FTTN』
マンションなどの建物まで光ファイバを接続する『Fiber To The Building』=『FTTB』

などがあり、これらをひとまとめにして『FTTx』などとも言います。

(イ)

ISDNの回線は2線式、つまり信号用に一対2本の線しか用意されていないため、上りと下りの通信を同時に行うことができません(これは文中の『イ』の部分に続くT主任の説明と対比されます)。そこで、短い時間ごとに送受信の方向を切り替えて双方向通信を実現しているのです。この方法を『時分割制御(=Time Compress Multiplexing、略称TCM)』といいます。交互にデータを送り合っている様子を球のラリーにみたてて『ピンポン制御』ともいいます。

ちなみに、64kbpsのBチャンネル×2と16kbpsのDチャンネル×1、さらに制御用の信号16kbpsを加えて片道144kbpsの帯域が必要です。これを双方向、さらに制御用の信号32kbpsを加えて、ISDNの回線は144×2+32=320kbpsの回線速度となります。

(ウ)

直後に『異なる波長の光を使って通信路を多重化する技術』と説明されています。この方法を『波長分割多重方式(=Wavelength Division Multiplexing、略称WDM)』といいます。

WDMでは上り・下りの通信を同時に行えるだけではなく、同じ方向の通信を多重化することもできます。ただしファイバの材質によって効率よく伝送できる波長の範囲が決まってしまうため、無限に多重化できるわけではありません。

(エ)

100BASE-TXで使用することから、ケーブルはカテゴリ5CAT5)以上のものであると判ります。

ちなみにLANケーブルのカテゴリと対応規格は以下のようになります。上位互換性があり、例えば100BASE-TXの通信にカテゴリ6やカテゴリ7のケーブルを使用することもできます。

カテゴリ対応規格
カテゴリ310BASE-T
カテゴリ5100BASE-TX
カテゴリ5e100BASE-TX、1000BASE-T
カテゴリ61000BASE-T、1000BASE-TX
カテゴリ6a10GBASE-T
カテゴリ710GBASE-T

(オ)

案2では、同じL3-SWに接続されている加入者宅、つまり同じ集合住宅内のすべての加入者宅が同じVLANに接続されています。このネットワーク構成では、加入者宅同士で通信ができてしまいますので、適切な転送制御が必要になります。

この設問ではそれを『スイッチベンダ独自のポート間通信制御機能を使用』して実現することになります。

加入者宅同士での通信をできなくするためには、同じ属性のポート間の通信を遮断する設定にすればいいでしょう。表の中でそれに当てはまるのはA2だけです。

設問2

(1)

a

OLTを出た光ファイバが収容局内の光分配器で4分岐し、さらにそのそれぞれが収容局外の光分配器で8分岐するのですから、OLT1台には 4×8=32台のONUが接続できます。

単純な掛け算だけなのでかえって落とし穴がないか不安になってしまいますが。

b

もとになる光ファイバが1000BASE-TX規格なので、通信速度は1000Mbpsです。T主任の説明から、下り方向のフレームについては同じOLUに接続されている全ONUが回線を共用するので(光分配器は同じ信号を分配するだけなので)、20台で分割するとONU1台あたりの通信速度は 1000÷20=50Mbps となります。さらにこの1台分を集合住宅内の10の加入者宅で均等に分割すると、1加入者宅あたりの通信容量は 50÷10=5Mbps となります。

(2)

ADSLとはAsymmetric Digital Subscriber Lineの略で、日本語では非対称デジタル加入者線といいます。アナログ電話のための回線を流用して実現でき、またアナログ式モデムやISDNと比較して高速な通信が可能なため、2000年代前半頃にブロードバンド時代の先駆けとして急速に普及しました。

ADSLは、本来は音声のような低周波の信号用に設計された回線を用いて高周波の信号を伝送しようとするため、いくつかの問題がありました。その中でも、距離が遠いと信号が急激に減衰するため、

収容局から遠いと充分な通信速度が出せない
さらに遠くなると接続すらできない

という点は当時の一般ユーザーの間でも有名で、『満足のいく通信速度が出せるのは収容局から2~3km程度まで』とも言われていました。

また金属線であるが故に

電磁ノイズに弱い

という点も指摘されていました。

さらに Asymmetric の名の通り、ADSL では『下りの通信容量を多く確保するために上りの通信容量を減らす(通信速度が上下非対称な)』仕様となっていました。これはWeb閲覧が主な用途だった当時のインターネットの利用状況を考えれば適切と言えますが、

上りと下りで通信速度が大きく異なる

ということも場合によっては使い勝手の悪さに繋がっていました。

設問では ADSL と比較した光ファイバの優位性を尋ねていますので、これらの問題点うち2つを選んで、光ファイバではそれが解決していることを指摘すればよいでしょう。

(3)

T主任の説明から、光分配器は単純にまったく同じ内容の信号を分配するだけの、リピータハブのような動作をすると想像できます。下りフレームの場合は、送信者がOLU1台だけなので、各ONUが自分宛ではないフレームを破棄するだけで問題は起きませんが、上りフレームでは、複数のONUが同時に送信してしまうとフレームの衝突が発生します。

そこで、時分割多元接続(=Time Division Multiple Access、略称TDMA)が利用されます。TDMA は短い時間間隔で送信者を次々に切り替えていくことで多重通信を可能にする技術ですが、そのためには通信に参加している各機器間でタイミングを同期することが必要です。そのため『OLUのタイミング制御』が行われるのです。
OLUが『はい、ONU-A君喋っていいよ…ONU-A君そこまで、次はONU-B君喋っていいよ…』と音頭をとり、それに従って通信している…と言えばイメージしやすいでしょうか。

設問3

(1)

案1は、ポート(1つの加入者宅)ごとに別のVLAN(サブネットワーク)としています。文中から、VLANごとに

加入者宅のPC
デフォルトゲートウェイ

の2つのホストアドレス(IPアドレス)を使用することが想定されていることが判ります。

IPアドレスは、IPv4の場合は32ビットのうち、上位何ビットかをネットワーク部としてネットワークそのものを区別するために使用し、下位の残りのビットをホスト部として個別のホスト(PCやルータなど)を区別するために使用しています。

ホストが2つだけならホスト部は1ビットだけで表せる…とはなりません。IPアドレスでは、

ホスト部のビットがすべて0…そのネットワーク自身を表すネットワークアドレス
ホスト部のビットがすべて1…そのネットワーク内のすべてのホストを表すブロードキャストアドレス

を表すと決まっており、個別のホストにはこのアドレスを割り当てることができません。問題文中にある『機器へ割り当て不可能なIPアドレスが二つ』とは、これを指しています。

ネットワーク内にホストが2台ある場合、

ホストに割り当てるアドレス×2+ネットワークアドレス×1+ブロードキャストアドレス×1=4

のアドレスが必要になります。よって、ホスト部は\(2^2=4\)より最短で2ビット必要になります。

プレフィックス長とはネットワーク部の長さを表します。ホスト部が最短2ビット、全体で32ビットですから、ネットワーク部は最長で

32-2=30ビット

となります。

(2)

問題文によると、L3-SWがフレームを転送を受け付ける通信は2つあることになっています。それが何かを考えてみましょう。

まず1つ目は、(当然ながら)加入者宅のPCからインターネットに対する通信です。
インターネットに対する通信では、宛先IPアドレスはもちろんインターネットのどこかにある最終的な目的地のホストのIPアドレスを指しますが、フレームの宛先MACアドレスはとりあえず今向かっている先、これから最初に経由するルータのインターフェイスのMACアドレスです。加入者宅から送信されたフレームは、L3-SWを経由したすぐ次にデフォルトゲートウェイを経由するので、宛先MACアドレスもデフォルトゲートウェイのMACアドレスになります。

2つ目は少し難しいかもしれません。加入者宅PCが通信を行うべき相手が問題文に記されていないように見えます。そこで問題文をよく読み直すと、[集合住宅内のLANの検討]の部分に『加入者宅ごとに1つのIPアドレスを割り当てるが、加入者宅のPCは当該IPアドレスをDHCPによって取得する』という記述があります。

ここでDHCPについて思い出しましょう。
DHCPでは、次の手順で通信が行われます。

クライアントが DHCP DISCOVER メッセージを送信する
DHCPサーバがクライアントに対して DHCP OFFER メッセージを送信する
クライアントが DHCP REQUEST メッセージを送信する
DHCPサーバがクライアントに対して DHCP ACK メッセージを送信する

さて、1番目と3番目で『クライアントが<DHCPサーバに対して>』となっていないのは、ブログ主が書くのを面倒がったからではありません。
考えてみれば当たり前ですが、

最初の段階ではクライアントはDHCPサーバのアドレスを知らない

のです。従って、宛先アドレスとしてDHCPサーバを指定することができません。
そのため、DHCP DISCOVER メッセージはセグメント内の全ホストに届くブロードキャストフレームによって送信されます。
では DHCP OFFER によってアドレスの提示を受けた後の DHCP REQUESTメッセージはどうかというと、セグメント内に複数のDHCPサーバが存在した場合に『どのOFFERによるアドレスを採用したか』を全DHCPサーバに通知するため、やはりブロードキャストフレームで送信されます。

つまり、L3-SWがブロードキャストフレームを転送しないと、加入者宅PCはIPアドレスの割当を受けられないのです。
設問では『宛先アドレス』を訊かれていますので、解答はブロードキャストアドレスとなります。

(3)

下線部④の『加入者宅に割り当てられたIPアドレスだけを加入者宅のPCに取得させる』ためには、DHCP DISCOVERやDHCP REQUESTメッセージがどの『加入者宅PC』から送信されたものかをDHCPサーバが判別できなければなりません。

このような目的では、よくPCのMACアドレスが使用されます。会社内のネットワークに備品のPCを接続するような場合ならそれでいいのですが、この設問の場合はあらかじめ管理者が利用者宅PCのMACアドレスを知っていなければいけないことになり、現実的ではありません。
そこで設問の文をよく読むと、『L3-SWにおいて機能するリレーエージェントによって』情報が付加される、とあります。つまり解答となるのはL3-SWが取得できる情報のはずです。

加入者宅を識別できる情報で、かつL3-SWが取得できるもの…と考えて、加入者宅に接続するL3-SWのポート番号がこの目的にかなうことに気付けば正解できます。

感想

全体として、並の難易度の問題だと思います。
設問1の(イ)(ウ)の用語を知らなかった受験生が多かったかも知れません。これは知らなければ絶対に答えられません。もし本番でそのような問題に当たってしまった場合はさっさとあきらめて次の問題にいくしかありません。

IPAが公開している講評によると設問3の正答率が低かったそうです。(3)で『PCのMACアドレス』という解答があったことについて触れられていますが、それ以外では(2)で『ブロードキャストアドレス』を答えられなかった受験者が多かったのではないかと想像しています。


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